Q27 子どもの連れ去りへの対応手段 

現在、夫と別居中です。夫との間には4歳になる息子がいて、私の下で養育していましたが、ある時夫が勝手に息子を連れ去ってしまいました。息子は幼稚園に通っていますが、夫が幼稚園に行き、「私(妻)から頼まれた」と嘘をついて連れ去ったのです。現在は夫の実家にて義父母が面倒を見ているようですが、「息子を返してほしい」と義父母に言うも、全く取り合ってもらえません。
このような場合、実力行使で取り戻してよいのでしょうか?また、法的に手続するとしたらどのような方法がありますか?

A:実力行使の連れ戻しは、連れ去りが違法であったとしても、同様に違法行為となりますのでやめましょう。連れ戻すためには、適正な法的手続きを利用していく必要がありますが、家庭裁判所に「監護者指定の審判」、「子の引渡し審判」に加えて、「審判前の保全処分」を申立てる方法が一般的です。

婚姻期間中の別居中であったり、離婚について話し合ったりしている中で、配偶者の一方がこどもを連れ去ってしまうということがあります。これは、子どもの親権について争いが発生した際に時折起こってしまうことです。

1.なぜ子どもの連れ去りが起こるのか

子どもの連れ去りが起こってしまう理由には、急を要するケースは別として、離婚事件における親権争いに際し、重要視されるポイントが関係しています。

親権の判断にあたっては、「配偶者のうちどちらが親権を強く望んでいるか」等はあまり関係なく、トータル的には「どちらと一緒に暮らす方がこどもにとって幸せか」という子どもの福祉が重視されています。子どもの福祉を判断する基準としていくつかのポイントがある訳です。

(1)監護の実績及び継続性

離婚によって親権を取得した場合、当然ですが取得した方が子どもを養育し続けていくことになります。すなわち、子どもの為の家事育児・保育園や幼稚園への送迎などを継続するだけの実績と能力があるかが重要となります。
子どもの連れ去りを引き起こす要因の1つは、「監護の継続性」にあります。1つの重要視されるポイントとして、「離婚手続きが行われるまでに子どもを監護していた方に親権が与えられるべき」というものがあります。もし、その時点までの片親との生活が安定している場合、親子関係や生活環境をむやみに変更してしまうと、子どもの成長に悪影響を及ぼす可能性があると考えられるが故です。
この点で有利になろうと考えた一方の当事者が、子どもを勝手に連れ去ってしまうという事案が発生してしまうのです

(2)母性優先の原則

子どもとの心理的な結び付きが強い方を親権者とすべきというものです。一般に「母性」とは、「母親が自分の子どもを育て、守ろうとする本能」というように定義づけられることが多いと思います。事実、日本においては、母性を強く有する者は往々に「母親」であると判断されることが多く、父親の特に乳幼児の親権を取得することを困難ならしめる要因の1つにもなっています。とすると、親権が欲しい父親からすれば、母性の部分で不利であることから、「せめて監護の実績を作らねば」と思い、子どもを連れ去るという行為に走ることが起こり得る訳です。
なお、「母性」というと、「親から子(一方的)への本能的な結び付き」という風に解釈されるような気もしますが、あくまで、親と子双方の心理的な結び付き(子が親を慕っているかどうか等)として判断されるべきと思われます。

2.子どもの連れ去り・連れ戻しの違法性

子どもの連れ去りというのは、夫婦の一方が他方の合意なく、一方的に子どもを連れて別居してしまうことを指します。正当な理由なく行われた場合には、連れ去りは違法とみなされます。

(1)子どもの連れ去りが違法とみなされるケース

■別居中の相手が子どもを連れ去る
■離婚における親権争いが激化し、同居段階で子どもを連れて家を出る
■幼稚園・保育園・小学校の通学や帰宅途中に子どもを待ち伏せして連れ去る
■面会交流後に元の家に帰さない

(2)正当な理由があるが故違法とみなされない可能性が高いケース

■子ども自身が相手方に虐待されていたなど、子どもの生命身体に危険が及ぶ可能性があるケース
■一方の親自身がDV被害を受けていて、子どもへの影響が懸念されたケース
■夫婦間の合意があったケース

(3)違法な連れ去りに対抗する連れ戻しは違法か

本Qのように、夫が「妻の承諾がある」と嘘をついて連れ去った行為は違法と言える可能性は高いです。では、これに対して妻が夫の同意なく実力行使で取り返すことはどうでしょうか。

答えは「NO」です。なぜなら、民法上で「自力救済禁止の原則」というものが定められているからです。

自力救済禁止の原則とは、「現に自らの権利や利益が侵害されている状況であっても、その回復を裁判所を通さずに自力で行うことはできない」というものです。
この原則を説明する例として実際に裁判となったものを挙げますが、「大家がアパートの住人に対し、家賃を支払わないので契約を解除した。しかし、住人が明け渡しをしないことに業を煮やし、家財道具を別のところに移転し、鍵を取り替えた。」ということが過去に起きています。もちろん、アパートの住人の行動が許される行動という訳ではありませんが、大家が自らの権利を回復するために行った一連の行動は裁判においても不法行為と認定されました。
先に違法な行為を起こされておきながら何故…」と納得できない部分は当然あるかと思いますが、自力救済が認められてしまうと、個人の勝手な判断で実力行使が行われてしまうことになります。事態の収拾がつかなくなってしまう可能性も高くなり、社会の秩序の乱れにもつながります。

ですから、子どもの違法な連れ去りが行われた場合であっても、適法な手続きに拠って引渡しを請求していく必要があります。

(4)違法な連れ去りの親権獲得への影響

子どもの違法な連れ去りは、決してそれのみによって親権獲得が認められてなくなるということはありませんが、違法性が認定されれば、親権獲得に不利になる場合はあります。
子どもの連れ去りは、子ども自身の生活環境を突然変えてしまうため、子どもの福祉の観点からは不利益と考えられる可能性も大きいでしょう。そのため、連れ去りの態様や経緯を含めて総合的に判断した結果、違法性が認められれば、親権獲得に不利な状況となる可能性は高くなります。

3.子どもを連れ戻すための法的手続き

では、子どもが連れ去れてしまった場合の対処法として、どのような法的手続きをとることができるか確認したいと思います。
それぞれの手続き内容を見る前に、前提として知っておいていただきたい事柄があります。

<「調停」について>

調停とは、裁判所における話し合いによって紛争当事者間の合意による解決を図る手続きです。民事に関する紛争を取り扱うものを民事調停、離婚や相続といった家庭内の紛争について取り扱うものを家事調停といいます。
家事調停においては、家庭裁判所の裁判官のほかに民間から選任された調停委員が調停の場に出席し、当事者間の仲介や和解あっせんなどを通じて紛争の解決に向けた合意の成立を目指します。調停は、あくまで話し合いの延長ですので、当事者双方が同意をしなければ成立しません。調停が不成立となった場合、訴えの種別によって審判あるいは裁判に移行します。

<「審判」について>

審判とは、家事事件手続法上で審判事項として掲げられた事項について、家庭裁判所が判断を下すものです。調停で折り合わなかった一種の紛争について、家庭裁判所が事案ごとに事実等を審理した上で判断を行うという点で訴訟と類似していますが、手続き面ではいくつかの違いがあります。

■審判と訴訟の違い

・訴訟は公開で行われるが、審判は非公開で行われる
・審判には処分権主義や弁論主義が採用されないため、当事者が請求、主張していない事柄でも、審判の内容に含めることができる
・訴訟における判決が不服の場合は控訴を行うが、審判の決定に不服がある場合は即時抗告等の不服申し立てを行う

<「調停前置主義」について>

調停前置主義とは、裁判手続き上において、裁判を提起する前に調停を経なければならないとする手続法・訴訟法上の制度・主義を指します。
例えば、離婚の訴えについては調停前置主義の対象となっており、いきなり離婚の訴えを裁判で提起するということはできず、まずは調停という話し合いの場を設け、その場で折り合わない(不成立となった)場合に裁判に移行することとなります。「いきなり裁判所が終局的に判断を下すよりも、話し合いによる解決ができるのであればその方が好ましい」という理由に基づくものです。 各種訴えの内、どのようなものが調停前置主義の対象となるかについては各法律に定められているところですが、本件のような子の引渡し請求については、調停前置主義の対象とはなっていないことから、いきなり審判の申立てから行うことも可能です。

さて、改めて子を連れ戻すための手続きの内容ですが、以下のような方法が考えられます。

  • 子の引渡し調停
  • 子の引渡し審判
  • 監護者指定審判
  • 審判前の保全処分(仮の引渡し、監護者の仮指定)
  • 強制執行
  • 人身保護請求

(1)子の引渡し調停

調停という名の通り、子の引渡しについて、調停の場で話し合うものです。
家庭裁判所の調停委員に間に入ってもらうことで、建設的な話し合いが行われる可能性もありますが、あくまで話し合いですので、一定の結論について双方が納得や同意を示さない限り成立しません。相手が子どもを返さないと主張し続ける場合、調停を以て子を取り戻すということはできません。そういう意味では、実効性に欠ける部分があると言わざるを得ません。

(2)子の引渡し審判

調停に対して審判ですので、子の引渡しについて家庭裁判所が判断を下します。前述の通り子の引渡しについてはいきなり審判の申立てから行われる傾向にありますが、取り巻く事情をもとに、家庭裁判所の職権で調停に付される可能性もあります。

審判にあたっては、第1回の審判期日の中で、当事者双方が掲げる事情をもとに、家庭裁判所調査官による調査そのものや、調査内容等を決定します。調査内容の目的としては「どちらの親が監護者として相応しいかを判断する」というものであり、その調査結果によって裁判所として引渡しの命令を出すのか出さないのかというところが左右されます。

調査対象としては、

現在子どもを監護している親の自宅
⇒現在の監護状況や生活環境の確認
引渡しを希望する親の自宅
⇒引渡し先としての適格性や生活環境の確認
子どもが通園(通学)する幼稚園・保育園・学校
⇒子どもの園や学校での状況について確認

といったところです。

家庭裁判所調査官は、上記の調査終了後、調査報告書を作成し、裁判官に提出します。調査報告書には、事実の他に調査を通じての当事者の監護者としての適格性いずれが監護者としてふさわしいかといった調査官の意見が記載されていることが通常です。裁判官は、調査官の意見には拘束されないものの、調査官報告書の通りの判断が下される傾向にありますので、判断材料として極めて重要な意味を持ちます

このように、子の引渡し審判においては、裁判官が一方的に判断を下すのではなく、調査官による詳細かつ丁寧な調査が行われ、子どもの福祉に配慮しながら手続きが進められます。

(3)監護者指定審判

主には、離婚が成立するまでの間、子どもを夫婦のどちらが監護すべきかについて家庭裁判所に判断を下してもらうものです。通常は、共同親権のもとに夫婦両名が子どもを養育する訳ですが、離婚を前提とする別居状態の場合は、子どもはどちらか一方のもとで養育されることになると思います。
監護者指定の審判は、子の引渡し審判とセットで申立てられるケースが一般的です。請求の流れとしては、本Qに則して言えば、

■子どもの監護者は妻である(という審判を求める)

■(監護者が妻であるのだから)夫は妻に子どもを引き渡す(という審判を求める)

というところになります。審判を通じて監護者に指定された場合、指定されなかった配偶者が子どもを連れ去るのは明確に違法となります。

監護者に指定されるメリットは様々です。まずは上記の通り、指定されなかった配偶者による子どもの連れ去りが明確に違法となりますので、連れ去りに対する抑止力となる点です。
次に、離婚が成立するまでの監護実績を積めるという点です。既述の通り、親権争いにおいて重視されるポイントとして「監護の実績及び継続性」がありますが、監護者として指定され適切に行うことができれば、後の親権争いにおいても有利に取り扱われる可能性が高くなります。そのような意味で、監護者指定審判は、離婚における親権争いの前哨戦とも言えるでしょう

(4)審判前の保全処分(仮の引渡し、監護者の仮指定)

保全処分とは、「緊急性が要請される事案において権利の実現が事実上困難になる場合に備えた、審判に先だった仮の処分」のことを言います。

子の引渡しや監護者指定の審判は、離婚の成立ほどの時間はかからないにしても、一定程度の期間はかかってしまうものです。その場合、申立てを行ったとしても、最終的な判断が下されるまでは子どもと生活することはできなくなってしまいます。また、連れ去りの態様が「嫌がる子どもを無理矢理連れ去ったケース」や、「連れ去ったうえで子どもに虐待が加えられている恐れがあるケース」の場合、子どもが連れ去られた状態が続くと、子どもが適切な監護を受けられず、心身への危険や成長への悪影響が生じる恐れもあります。そういった場合に審判前の保全処分を申立てることで、最終的な決定に先立って仮の引渡し命令が下れば、早期の引渡しが実現可能となります。

審判前の保全処分を行うメリットとしてもう1つ注目すべきは、「即時抗告の場合の執行停止力がない」点にあります。即時抗告とは、「裁判所の決定・命令・または審判に対する不服申し立て」を指します。本件について言えば、子の引渡しや監護者指定の審判の内容に対し不服がある場合、高等裁判所に即時抗告を行うことができます。即時抗告には原則として執行停止力(処分の効力や処分の執行を行わせないようにする力)があるため、もし、子の引渡しを命ずる審判が下されたとしても、一方がそれを不服として即時抗告をすると、即時抗告に対する審理や結果が出るまでは審判の内容が確定せず、子の引渡し等の実現もできないことになります。一方、審判前の保全処分申立てによって保全処分が認められた場合でも即時抗告は可能ですが、保全処分に対する即時抗告には執行停止力が(当然には)認められていません。つまり、保全処分において子の仮引渡しの命令が出ている場合、相手方は即時抗告を行ったとしてもとりあえず子を引き渡さねばならなくなります。

改めて言いますが、子の引渡しや監護者指定の審判を申立てたとしても、最終的な判断が下るまでには一定の期間がかかってしまいます。その間、子どもは相手の元で生活を続けることになりますが、もし子どもと相手が平穏に暮らしているという現状が作られてしまうと、後に引渡しが認められなくなる可能性も生じてしまうので、併せて審判前の保全処分を申立て、家庭裁判所の迅速な判断を促すことには大きな意味があります。

なお、審判前の保全処分は、最初に述べている通り、「緊急性が要請される事案において、権利の実現が事実上困難になる場合に備えて」申立て家庭裁判所の判断を求めるものですが、当然何でもかんでも保全処分が認められるという訳ではありません。実質的な要件としては、

審判認容の蓋然性(申立人の主張が認められる可能性が高い)
保全の必要性

です。審判前の保全処分を申立てる場合は、上記の内容をきちんと主張に盛り込む必要があります。

すでに子の引渡し審判と監護者指定の審判をセットで申立てることが一般的である旨述べましたが、通常はそれに加え、審判前の保全処分も併せて申立てることが多いです。これらは、弁護士の間ではしばしば子の引渡しの法的手続きにおける″3点セット″などと呼ばれています。

(5)強制執行

子の引渡し審判や、審判前の保全処分の申立てによって引渡しが認められたとしても、相手が命令に従わないで引き渡さないというケースもあります。そのような場合には、強制執行によって子どもを取り戻す必要があります。強制執行は、裁判所の執行係に申し立て、執行の決定を受けることによって可能となります。

子の引渡しの強制執行には、「間接強制」と「直接強制」の2種類の方法があります。

■間接強制

相手方債務を履行しない場合に、相手に金銭的な支払いをさせることによって、間接的に義務の履行を促す(強制させる)方法です。子の引渡しの場合で言うと、相手が子を引き渡さない場合に、一定の金銭の支払いを行わせ、負担をかけることによって自発的な引渡しを促すというものになります。
金銭の支払い(間接強制金)の額は、相手の資力と照らし合わせた上で、相応の圧力がかけられるものでなければなりません。通常のサラリーマンであれば1日辺り1万円~2万円を設定するのが無難ですが、資産家や高額所得者である場合には、より高額な間接強制金を設定する余地もあります。いずれにも、執行機関たる裁判所の許可次第というところになります。

■直接強制

対して直接強制は、執行機関の実力により債務の内容を直接的に実現する方法です。子の引渡しの場合においては、裁判所の執行官と共に子どものいる場所に行き、直接子どもを連れ戻すことで引渡しを実現します
実は、子の引渡しにおいては、近年まで直接強制の明文規定はありませんでした。つまり、法律上は、「執行官が直接子どものいる場所に行って、子どもを連れ戻す」という方法は規定されていなかったということです。しかし、令和2年4月1日施行改正法により、直接強制の規定がきちんと明文化されました。

(明文化される前も、実は動産の引渡しの強制執行を無理矢理類推適用する形で直接強制の決定が下されていましたが、明文規定が無いにも関わらず子の引渡しの直接強制が実現されることには一定の議論がありました)

■間接強制と直接強制の優先関係

子の引渡しの強制執行には、上記の通り2種類の方法がある訳ですが、「どちらの方法が望ましいか」については、執行機関たる裁判所の裁量によって決定されます。決して、「間接強制から最初に行わないといけない」という原則があったりする訳ではありませんが、直接強制が認められる要件としては、法律により以下の3つのいずれかに当てはまる場合となります。

間接強制決定が確定した日から2週間を経過しても引渡しが実現しない場合
間接強制を実施しても子が解放される見込みがないと判断されるとき
子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があるとき

(6)人身保護請求

人身保護請求とは、ある者が、法律上正当な手続きによらずに身体の自由を拘束されているときに、被拘束者自身また他の誰からでも、裁判所に対して自由を回復させることを請求することができる制度です。従来は、矯正施設の収容者の釈放を求める際などに利用されていましたが、子の引渡しを求める手段として用いられることも多くあります。しかしながら、その要件の内容(後述します)からも、子の引渡しを求める上での最終的な法的手段と言えます。

人身保護請求の流れとしては、
①原則として、被拘束者又は請求者の所在地を管轄する高等裁判所もしくは地方裁判所に請求を申立てる
※多くの場合地方裁判所です。なお、原則として弁護士を代理人として申し立てる必要があり、この点は人身保護法にて規定されています。
②申立後に準備調査期日が設けられる。期日内で詳しい事情を裁判官から確認されることとなる
※請求の理由がないと判断される場合は、この期日を通じて請求が棄却されます。
③請求内容が正当と判断されれば、尋問期日が設けられる。尋問期日においては、請求者と拘束者の両方を出頭させ、尋問期日までに答弁書の提出を命じた上で、答弁内容や疎明資料の取調べが行われる。
※場合によっては、複数回の期日が設けられることもあります。
④最終尋問期日から5日以内に最終的な判決が下される

という流れとなっています。

人身保護請求はその規定内容から、迅速性と実効性を持つものです。なお、下記の規定は全て人身保護法に規定されている内容です。

■人身保護請求の迅速性
尋問期日は、請求のあった日から1週間以内に開かなければならない。
判決は、尋問終結から5日以内に言い渡さなければならない。
・裁判所は、人身保護請求について事件受理の前後に関わらず他の事件に優先させなければならない

■人身保護請求の実効性
・尋問期日に差し当たり、裁判所は被拘束者及び拘束者の出頭を命じることができる
・拘束者が上記命令に従わない場合には、勾引・勾留・過料に処される
※勾引(こういん)とは、尋問のために対象者を強制的に裁判所や警察署などに連れていくこと
・拘束者が被拘束者を移動・蔵匿・隠避等によって被拘束者の救済を妨げる行為をした場合、及び答弁書に虚偽の記載をした場合は、懲役や罰金に処される。

拘束者が「法律上正当な手続きによらずに身体の自由を拘束されている」恐れがある訳で、迅速な手続きが求められるほか、実効にあたっての強制力が担保されているということです。

一方で、人身保護請求が認められるかどうかについては当然、一定の判断基準があります。

■人身保護請求の判断基準

①子が拘束されていること
この点については、判例において「意思能力のない幼児を監護すること」自体を「拘束」と解すべきと判断されており、監護方法の当不当や愛情に基づくものかどうかはおよそ関係ないとされています。一方で、意思能力のある子どもが自らの意思で拘束者の下に身を置いている旨の意思表示が確認できる場合には、拘束にはあたらないとされるようです。

②拘束が違法であること
上記①の判断がおおよそ必要無いというところから、主に問題となるのは拘束の違法性です。
この点については、同じく判例において「拘束者の拘束(監護)が一方の配偶者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であること」が必要とされ、具体的には、
・拘束者が子の引渡しの審判や保全処分に基づく(仮)引渡し命令に従わない場合
・拘束者が離婚に伴う被拘束者の親権者ではない場合
・拘束者の監護の下では子の健康が損なわれ、あるいは満足な義務教育が受けられないような場合
のいずれかに当てはまるような場合とされています。

③他の適切な方法がないこと
この要件から、人身保護請求は補充的な手段であると解されます。この点については、他に救済の目的を達する手段が考えられるとしても、相当の期間内に目的が達せられないような場合は、要件を満たすとされています。
実際の流れとしては、子の引渡しの審判・保全処分に基づく(仮)引渡し命令に応じない場合の強制執行を行ったものの奏功しなかった場合において有効とされます。

ここまでの内容を踏まえた上で、子の引渡しにかかる手続き利用の順序としては、以下の通りとなります。

4.監護者指定・子の引渡しの判断基準

さて、ここまで子の連れ去りに対する対応方法について説明させていただきました。
夫婦の別居中に子の引渡しが問題となる場合、夫婦双方が親権者であるため、権利の面から言えばどちらにも監護権はあることになりますが、判断基準として最も重視しなければならないのは「子どもの利益(福祉)」です。判断にあたっては、何点かの基準が存在します。

①監護の継続性の維持
⇒現状において継続されている監護環境を維持すべきである

②主たる養育者の尊重
⇒子どもの出生から現在までに至って主に養育を行ってきた者が監護者であるべきである

③母性優先
⇒母親(母性を持つ者)が監護者として相応しい

④子ども自身の意思の尊重
⇒子ども自身の意思が尊重されるべきである

⑤兄弟姉妹不分離
⇒子どもに兄弟姉妹がいる場合、離れ離れになるべきではない

⑥面会交流許容性
⇒面会交流に弾力的に対応する者が監護者として望ましい

⑦監護開始に関わる態様
⇒一方による監護開始の経緯に違法性がないか
※この点が、本件の主題である「違法な連れ去り」にかかるものです。違法性の度合により、違法に連れ去った側の親をマイナスに評価します。

⑧離婚に際しての有責性
⇒離婚の原因として、一方の配偶者に有責性があるかどうか
※この点は、離婚の原因が不貞やDVである場合、有責配偶者に対し子の監護者としての適格性がない事情として考慮されるかどうかというところになります。

ただ、これらの基準はしばしば矛盾排斥し合いますので、最終的には、諸々の基準を総合的に比較調整して、いずれが監護者としてふさわしいかということを判断することになります。
上記の基準に沿って判断するにあたり、更にそれぞれの事情として考慮すべき要素には以下のようなものがあります。

■監護者の事情として考慮すべきもの
・主たる監護者
・監護能力
・精神的・経済的家庭環境
・居住・教育環境
・母性(愛情の度合)
・監護状況
・実家の資産
・親族の援助の可能性

■子の事情として考慮すべきもの
・年齢や性別
・兄弟姉妹の有無
・心身の発育状況
・従来の環境への適応状況
・環境の変化への適応性
・子どもの意向

5.子の引渡し請求は、弁護士への依頼をご検討ください!

上記に述べた監護者指定の基準は、しばしば互いに矛盾排斥し合う関係となります。その中で、どの要素が強いと有利になるか等は、経験豊富な弁護士に相談することが何より重要です。
当事務所は、経験自体が足りない若手の弁護士も在籍しておりますが、経験豊富な弁護士が都度指導したり、所内において勉強会を開いたりして、弁護士のスキルや経験値を余すことなく伝授していますので、安心してご依頼ください。

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